なんば千日前。ネオンの色も昔より少し薄れたけど、あのビルはまだ夜を抱いていた。
味園──かつての大阪の夜の交差点。大阪市中央区、味園ビル地下にあるイベントホール「味園ユニバース」が、2025年7月5日をもって閉館する。かつてはキャバレー「ユニバース」として営業し、2011年以降はライブやイベントの貸しホールとして使われてきた。
閉館の知らせを聞いて、あの場所が持っていた魔力を思い出す人々が集まった。そこには、20代でも30代でもない。60歳を超えた男女が集まり、ディスコナイトが始まった。
開場と同時にフロアに飛び出す女たち。 金髪、ミニスカ、ロングブーツ。 誰が“おばちゃん”と言えるだろうか。 彼女たちはこの夜、女に戻った。いや、女としてそこに立っていた。
男たちも負けてはいない。 照明がまわる中、60歳を過ぎた男が、60歳を過ぎた女を口説いている。 酔いではない。欲でもない。 それはもっと繊細で、でも濃いものだった。
記憶が肌を伝うような音楽。ユーロビート、ディスコ、あの頃の香り。
ふと、カウンターで交わされる言葉が耳に残る。 「昔、よう踊ったな」 「今も、よう踊ってるやん」
ふたりが笑った瞬間、年齢も立場も過去も、すべてが意味を失って、 ただの“男と女”だけがその場にいた。
味園のネオンがまもなく消える。 1950年代に建てられたこのビルは、2019年にホテル、2020年に宴会場、2024年末に2階の飲食店街の営業が終了し、そしてユニバースの閉館によって、70年の歴史に幕を下ろす。
昭和の香りを残した独特の雰囲気を愛する人たちから、惜しむ声も多い。 けれど、この夜の火は、まだどこかでくすぶっている気がする。
還暦。それは終わりじゃない。 新しい夜を踊るための、チケットなのかもしれない。
※この記事は、ドルフィンナイト・シリーズとして「終わらない夜を生きる大人たち」の記録として書き残していきます。
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